健康保険組合・国民健康保険の健診データに基づく2018~2020年度の血圧変化とその要因
■ 学会名
第32回 日本疫学会学術総会
■ 発表日
2022/01/26
■ 筆頭演者
佐藤倫広¹,²
1)東北医科薬科大学医学部衛生学・公衆衛生学教室
2)東北大学東北メディカル・メガバンク機構予防医学・疫学部門
■ 共同演者
村上任尚¹,²,³、小原拓²,⁴、目時弘仁¹,⁵
3)東北大学大学院歯学研究科加齢歯科学分野
4)東北大学病院薬剤部
5)東北大学東北メディカル・メガバンク機構地域医療支援部門
■ 発表形態
口頭(オンデマンド)
■ 要旨
【背景・目的】日本高血圧学会が定める高血圧治療ガイドライン(JSH)の2019年4月に改定され、降圧目標値が引き下げられた。一方で、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、2020年4月には初の緊急事態宣言が発出、日本国民も社会活動制限を余儀なくされた。これらの影響を受け、国民の血圧レベルが変動した可能性がある。本研究では、2018~2020年度の血圧変化を健康保険組合・国民健康保険の健診データに基づいて検討した。
【方法】DeSCヘルスケア株式会社が保有する健康保険組合・国民健康保険の健診データを受領し、血圧データを有し、降圧薬服用有無の情報に変化が無かった対象者157,495名を抽出した。対象者を、降圧治療の有無と性別によって4群に分類し、2015~2020年度の血圧レベルの推移を、健診実施月を調整した一般線形混合モデルで明らかにした。
【結果】2018年度時点の平均年齢は49.9歳、平均収縮期/拡張期血圧は120.9/ 74.5 mmHgであり、女性・降圧未治療が27.5%、女性・降圧治療中が5.0%、男性・未治療が56.2%、および男性・降圧治療中が11.4%であった。2015~2019年度の収縮期血圧レベルは、未治療者では直線的に上昇していたが、降圧治療者では2018年度に比べ2019年度で女性では1.1 mmHg、男性では0.29 mmHg低下していた(P<0.0001)。一方、2019年度~2020年度では血圧の上昇率が大きく、2019年以前から推定された年間上昇率を考慮しても、2020年度では収縮期/ 拡張期血圧が女性・降圧未治療で2.06/ 1.05 mmHg、女性・降圧治療中で1.68/ 0.41 mmHg、男性・未治療で1.51/ 1.10 mmHg、および男性・降圧治療中で0.88/ 0.37 mmHg過剰に上昇していた(all P<0.0001)。2018年時点の性別、年齢、国保加入、BMI、喫煙、飲酒、血圧、HbA1c、脳心血管既往、対数変換後AST、対数変換後γ-GTP、LDL-c、糖尿病・脂質異常治療薬の有無、および運動習慣の有無で調整後、また、これらのうち年間変動する因子(血圧以外)について各健診年度の値を時間依存性共変量として追加調整したが、2020年の過剰な血圧上昇度の変化は5%未満であった。
【考察・結論】降圧治療者の血圧が2019年度にやや低下しており、JSH2019改定が影響している可能性がある。しかし、その後の2020年度には血圧が過剰に上昇していた。社会活動制限による体重増加や血糖増悪などが報告されているが、本研究の時間依存性共変量を調整後の結果から、これらの影響を超えた社会活動制限による血圧上昇が起こっていたことが示唆された。