リフィル処方新設と分割処方動向との関連:大規模レセプトデータを用いた政策前後の比較

2024年2月5日

■ 学会名
第61回日本医療・病院管理学会学術総会

■ 発表日
2023/11/04-05

■ 筆頭演者
山下 信哉¹
1)小野薬品工業株式会社

■ 共同演者
石川 智基²,³,⁴、田口 怜奈²,⁴
2) 一般財団法人 医療経済研究・社会保険福祉協会 医療経済研究機構
3) 北海道大学大学院保健科学研究院
4) 東京大学大学院医学系研究科

■ 発表形態
口頭

■ 要旨
【背景】2022年度診療報酬改定において、症状が安定している患者を対象に処方箋を一定期間内のみ反復利用できるリフィル処方箋が導入された。既存の分割処方と合わせて、医療機関への受診を伴わない処方は、医薬品へのアクセシリビティ向上、服薬管理や長期処方といった処方動向へ影響を与え、医療提供体制の一助となることが期待されている。一方、医療機関と薬局との連携体制の構築が必要な点や、医療機関における収益性の観点から、普及へ課題があることが指摘されている。新設された制度について実臨床の視点からフィードバックを得ることは、医療政策学上重要な知見である。しかし、通院を伴わない分割処方やリフィル処方に焦点を当て、提供実態を記述した報告は少ない。本研究は、大規模レセプトデータベースを用いて、リフィル処方および分割処方の利用実績について医療機関と患者双方の視点から評価することを目的とした。

【方法】DeSCヘルスケア株式会社が提供する健康保険組合、国民健康保険と後期高齢者医療分レセプトに関するデータベースのうち2021年4月から2022年8月(診療月ベース)を使用した。調剤行為レコードにおいて、分割処方あるいはリフィル処方の調剤行為コードが記載された処方および対象患者を分析した。各処方の件数を年度別に集計し、性・年齢等の属性や医療機関規模など、各処方の利用状況を患者、および医療機関の視点から比較した。

【結果】2021年4月から2023年3月で処方履歴のある患者5,011,732名に対する処方44,188,447回のうち、分割処方が939名(0.02%)に計2,623回実施されていた。2022年4月から8月は888,777名に対する処方2,746,886回のうち、分割処方は25 名(0.003%)に38回、リフィル処方は646名(0.07%)に1,297回実施されていた。分割処方は70代患者を中心に使用されているのに対して、リフィル処方は50代を中心に利用されていた。また、リフィル処方利用者において、分割処方の利用歴を有する患者はいないことが明らかとなった。医療機関属性については、分割処方は52.0%が診療所で実施されており、リフィル処方は82.2%が診療所で実施されていた。

【考察】2022年度から分割処方が著名に減少していた。リフィル処方制度が開始後まもなく利用されていることを踏まえ、従来であれば分割処方を利用していた患者がリフィル処方を利用した可能性を示唆する。リフィル処方は、症状が安定している患者を対象とするといった処方行為の目的は年齢構成の違いなどと整合すると考えられる。リフィル処方利用者は、通院を伴わない処方の新規利用者であることが明らかであり、ターゲットの患者層は分割処方とは異なると考えられる。新たな処方行為の普及のあり方を検討する際は、対象患者や医療機関の属性を踏まえ、施策を立案することが望まれる。